先天性股関節脱臼
疾患概要
周産期や出生後の発育過程で股関節の脱臼が起こる疾患です。臼蓋(股関節を覆っている骨盤の骨)形成不全や亜脱臼などの脱臼につながり得る状態を含めて、発育性股関節形成不全とよばれることもあります。
誘因・原因
脱臼の発生につながる先天因子には、浅い臼蓋(臼蓋形成不全)、関節弛緩性などがあります。骨盤位分娩(先頭が下肢や殿部からの出産、いわゆる逆子)、股関節の開排が制限される窮屈なおむつなどが環境因子としてあげられます。
症状・臨床所見
肢位異常として、みかけの脚長差、鼠径部から大腿の皮膚皺の非対称、殿部の形の非対称などがみられます。股関節の屈曲をした状態で開排すると、脱臼側では開排制限がみられます。クリックテストという方法で患児の股関節を検査すると、新生児では脱臼位から整復(正しい位置に戻すこと)されるときにクリック(コキという感触があります)を触知します。
患児の右股関節を検査する場合:左母指を大腿内側に、中指を大転子部に置く、右股関節を開排しながら中指で大転子を前方に押す。大腿骨頭が寛骨臼蓋に整復されると”コキ”という感触がある。年長児では腰椎の前彎の増強、トレンデレンブルグ徴候などがあるために、姿勢や歩容の異常がみられます。
股関節脱臼の診察
●開排制限
左大腿外側部は十分な開排ができるが、右は大腿部がベッドから浮き上がっている。右股関節開排制限+とし、その角度を記録する。
●大腿内側の皺の左右差
右大腿内側部の皮膚溝の数が多く、深く、長い
●みかけの脚長差(Allis徴候)
右の脚の高さが低い
検査・診断
乳児期では、まだ大腿骨や骨盤の骨化していない部分が多いため、股関節の形をレントゲン検査で把握するのが難しくなります。そのために、種々の基準線が診断に用いられています。エコー検査は臼蓋や関節唇、骨頭が描出されます。股関節の動きを観察できる利点があります。
治療
新生児期
クリックテスト陽性の場合、下肢を自由に動かせるようにして経過を観察することが多いです。これに対して早期に治療を開始するのがよいとする考えもありますが、新生児の骨頭は脆弱なために、治療によって骨頭障害を引き起こす可能性が高いことに留意しなければなりません。
乳児期
多くの場合は生後3~4か月にリーメンビューゲル法による治療が行われます。これによって約85%の例が整復されます。リーメンビューゲル法で整復されない例に対しては、牽引法や徒手整復法が行われます。これらの治療を行っても整復されない場合は、手術的に整復障害因子を取り除いて整復位を得る観血的整復が行われます。
幼児期
1歳以降に診断された場合は、観血的整復が必要になる例が多くなります。外反股による再脱臼を防ぎ、臼蓋形成を促すために大腿骨付近部での減捻内反骨切り術を追加することがあります。減捻内反骨切り術は、大腿骨を転子部で骨切りし、頸部の角度を変化させて荷重面を移動する手術法です。臼蓋形成不全を補正するために骨盤骨切り術が行われることもあります。