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病気院長

痛くないけど肩が上がらないのはなんで?

いつもご覧いただきありがとうございます。

イノルト整形外科 痛みと骨粗鬆症クリニック院長の渡邉順哉です。

 

さて、今回は珍しい病気、キーガン型頚椎症(頚椎症性筋萎縮症)の症例に出会いましたのでお話しします。

肩が痛くないけれど、上がらなくなってしまった。

実は珍しいですが、こういった症状で受診される方はたまにいます。

良くあるのが、肩が痛くて上がらない。

こちらは、五十肩(肩関節周囲炎)が一番多く、次に多いのが肩を挙げる腱が切れる腱板損傷、あとは石灰が炎症を起こして激痛になる石灰沈着性腱板炎です。

私も含め整形外科医は、初診のお話しで、多い病気順にここまで病気を絞り込んでいると思います。

 

しかし、今回の中年の男性の患者様は

昨日朝起きたら、痛みはないけれど肩が上がらない。とお話しされました。

 

痛くないのですか??と聞き返してしまいました。

痛くないのに、肩が挙がらない。

これは整形外科医としては、日常診療でのイレギュラーなワードです。

腱板損傷か??

 

肩を挙げる腱板が切れると、上げようにも挙がらず、反対の手で支えながら上げれば上がりますが、降ろすときに痛みが出たり、夜間の痛みが出たりすることがあります。

高齢者だと、自然に切れて痛みがない場合もありますが、今回は中年だったため自然に切れるということは滅多にないため、何でだろ??となります。

 

レントゲンは予想通り、肩は異常なし。

超音波検査でも、やっぱり腱板は切れていませんでした。

 

何でなんだろう・・・・?

頚髄症?いや両側、下肢にもくるはず・・・

 

痺れや痛みがないのに、肩が動かない?

痺れや痛みは感覚神経、動かすのは運動神経と別の神経が働いています。

運動神経だけやられる病気って・・・?

あっ、キーガン型頚椎症では!!??

頚椎症の神経症状といえば、首の骨の変形で首の後ろの神経の出口で肩や腕に行く神経が圧迫されることで、肩甲骨から肩や手にかけての痛みや痺れを起こす病気で、中年の男女にとても多い病気です。

実はこの頚椎症にはとっっっっっっっっっっっっっっっっっっても珍しいキーガン型というタイプがあります。

多分、頚椎症の1000人に1人くらいじゃないかという感覚です。

脊椎専門の整形外科医であれば、何度か手術をしたことはあるかもしれませんが、脊椎以外を専門にしてきた例えば私のような膝の専門の整形外科医は数年に一度会うか会わないかという疾患です。

頚椎症による神経症状といえば、痺れ・痛みの病気で、進行し過ぎると力が入らないこともありますが、

痛みも痺れもないとなかなか疑えず、キーガン型頚椎症は整形外科医でも見逃すことが多い病気です。

この患者さんでは、肘を曲げる筋力も一緒に下がっていて、これはキーガン型頚椎症の特徴でもあります。

実は、肩に行く神経は首の骨に入って脊髄神経に繋がるのですが、その骨の入口に入った所では、痛みや痺れなどを伝える後ろ側の後根の神経と筋肉を動かす前側の前根の神経とに分かれます。

これらの神経の前には首の骨と骨の間にある椎間板というクッションがあり、その椎間板が圧が高まって弱い部分から後ろに飛び出ししまい、神経を押してしまう、頚椎椎間板ヘルニアという病気を起こすことがあります。

ヘルニアは神経の前から飛び出してくるので、当然前の前根の神経がやられそうですが、後根の神経は一部太くなっているからなのかこちらが先に影響を受け、痛みや痺れを起こします。

しかし、稀に前根の神経だけ圧迫されることがあり、肩を動かすための筋肉に動けという電気刺激を与えている神経がやられるため、痛みや痺れはなく肩が挙がらないという症状だけが出ます。

基本的には、頚椎のMRIを撮影して、神経の圧迫具合を確認して、確定診断となります。

 

さて、ここでさっさとヘルニアを手術をすれば良いという考えに行きつく方もいらっしゃるかと思いますが、

首の手術は、腰の手術とは比べ物にならないくらい、合併症のリスクがあがります。

実は、背骨の後ろにある神経が通るトンネルである脊柱管は、首では狭く、腰では太くなっています。

しかし、逆にその脊柱管を通る神経自体の太さは頭に近いほど太く、腰に近づくにつれて分岐して細くなります。

腰ではトンネルは広いのに、通る神経は細いので余裕ですが、首は狭いトンネルに太い神経が通るので、ちょっとでも狭さが悪化するとさまざまなトラブルを起こします。

例えば、首の手術で、神経が通る骨のトンネル内で、大出血が起こると血の塊である血腫ができ、狭いので簡単に神経を押して、両肩が挙がらなくなる麻痺という合併症を起こすことがあります。

腰の手術は神経が細く、骨のトンネルが広いためこのようなトラブルはほとんどありません。

こういったリスクから、腰と比べると首の手術はなるべく避けた方が良いと思っている整形外科医は私だけではないと思います。(もちろんそういったリスクを超える有益性が明らかな症例に関しては手術はすべきだと思います。)

さまざまな論文から、このキーガン型頚椎症ではいきなり手術でなくとも、リハビリを行いながら経過をみていくと数ヶ月から1年程度で大幅な改善を望めるようです。

ただ、それだけ長期に渡り肩を動かしていないと、肩が固くなっていまうため、理学療法士などのリハビリで固くならない予防を行う必要があります。

腰椎椎間板ヘルニアは、手術しなくとも、1年程度でヘルニアが自然と小さくなり、症状も手術しない場合と同じくらいまで改善するという研究結果もあります。

恐らく、頚椎ヘルニアも時間の経過とともに縮小し、圧迫が改善され、挙がらないという症状も徐々に改善してくるようです。

 

骨の変形による頚椎症性神経根症は、今回のキーガン型頚椎症よりも圧倒的に多く、10人に1人くらいはいるのではないかと思ってしまします。

これだけは覚えてもらいたいのですが、この頚椎症は骨の変形によるものであり、普段の首の姿勢や過去の頭部をよく動かして首に負担の掛かるスポーツをしていた方などは結構40代で首の骨の変形による神経痛を起こします。

これだけは覚えてもらいたいのですが、首の手術は合併症が多いので、スマホ首などにならないように、もう少し普段から首を大事にして生活して頂きたいなと、整形外科医は思っております。

最後まで、ご覧いただき誠にありがとうございました。

 

イノルト整形外科 痛みと骨粗鬆症クリニック院長 渡邉順哉

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